地震被害があぶりだす南北問題~貧しければより危険という現実
中国の四川省で現地時間12日に発生した大地震による死者は、現時点(原文執筆当時)で1万5000人に達したとみられ、なお数千人ががれきの山に埋もれている可能性がある。
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/forbes/080530_nanboku/
今回のような強い地震(マグニチュード7.9と発表された)に見舞われれば世界のどの都市でも被害を免れることができないことは言うまでもない。だが、死者数と損壊の程度は地震の規模そのものよりも、強い地震にも対処できるような耐震性の高いインフラの整備に投入された資金の大小に左右される面のほうが大きい。北京オリンピックの競技施設はマグニチュード(M)8.0に耐えるように設計されているが、四川大地震の被災地のインフラは、この強い揺れに耐えられる設計になっていなかったことが明らかになった。この地震は震源から遠く離れたベトナムのハノイやタイのバンコクでも揺れを感じたほどだ。
地震による死者数が増加する原因になっているのは、都市部での急激な人口増加、貧困の拡大、建築基準の甘さや欠如などだ。つまり、貧しい国(中国も例外ではない)は豊かな国よりも地震で死者を出す危険性がはるかに高い。
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米GeoHazards International(GHI)は自然災害による被害の低減を目指す非営利の研究グループだ。そのGHIが、アジアと南北アメリカにある大小の都市を対象に、地震災害の死者数を試算した。ここは特に地震の被災が懸念される地域だ。調査対象となった都市は先進国と発展途上国の両方から選ばれている。試算の根拠となったパラメータは、建物のもろさ、地滑りや火災発生の危険性、地方自治体組織が持つ救助、消防、救急医療の能力だ(編集部注:この調査研究「GESI Pilot Project」はGHIとUNCRD/国連地域開発センターなどの共同プロジェクト。地震の脅威にさらされており、かつGHIとUNCRDの拠点がある、そして調査に協力すると表明した21都市が調査対象となった)。
2001年に公表された研究報告書を見ると、ネパールのカトマンズが推定死者数で1位となり、以下、トルコのイスタンブール、インドのデリー、エクアドルのキト、フィリピンのマニラ、パキスタンのイスラマバード/ラワルピンディ都市圏と続いている。いずれも地震が発生すれば万単位の死者が出ると予測されている。先進国の都市でリストに掲載されているのは日本の東京、名古屋、神戸だけだ。これらの都市の推定死者数はいずれも数百人のレベルで、数千人ではない。
この報告書の公表後に実際に発生した災害から、予測がかなり正確だったことが分かる。ただし、数字は予測を上回った。2005年10月、カシミール地方のパキスタン側でM7.6の地震が発生、7万3000人以上が死亡した。犠牲者の大半は辺境の住民で、イスラマバードのような人口密度の高い都市部ではなかった。GHIの研究報告書では、M6.0の地震がイスラマバードで発生し、1万2500人が死亡すると予測されていた。
GHI代表のBrian E. Tucker博士は2004年に発表した論文の中で、ある研究成果を引用して、今後問題はさらに深刻になると警告を発した。それは、北インドにおける人口増加と建築工事の変化に着目して地震による死者数を推定した研究で、恐ろしい調査結果が記されている。インド北東部の高原にあるシロンでM8.3の大地震が発生した場合、予想される死者数は1897年に発生した同規模の地震の60倍にもなるというのだ。人口は当時の8倍程度にしか増加していないのに、なぜそうなるのだろうか。答えは住宅にある。かつての竹を建材とする平屋建てから、ずさんな工事によるコンクリート枠組構造に変わってきているのだ。しかも、急斜面に建てられることも多く、住民の危険は増すばかりだ。
これとは反対の現象が20世紀の途上国(編集部注:現在の先進国)で起きていた。地震国では建築基準が強化され、災害への備えも整えられた。都市部で人口が増加したことは確かだが、第三世界の都市とは様相が異なっていた。後者においては、地方の貧困層が都市部へ流れ込み、住環境は次第に過密になっていった。今後20年で世界の人口は20億人増加すると見込まれるが、そのうち先進国での増加分はわずか5000万人にすぎない。残りは発展途上国で、大半が都市部の人口密集地域での増加分となる。
地震による経済的な影響も実に対照的だ。Tucker氏の推計では、米カリフォルニア州で発生した1994年ノースリッジ地震による経済的損失はウェストコースト地域GDPの約1%、同じく1989年ロマ・プリエタ地震による損失は地域GDPの0.2%にすぎなかった。一方、1972年ニカラグア地震による損失は実に同国GDPの40%、1986年エルサルバドル地震でもGDPの30%に相当するものだった。
Tucker氏はこう主張する。「Munich Re Groupのデータによれば、1985から1999年までの15年間に、世界で最も豊かな国々が被った自然災害による経済的損失は平均でGDPの約2%に相当するのに対して、最も貧しい国々の損失は平均でGDPの約13%に上る」